もう帰る

book

大長編「やまだたろう」

2016年4月1日 初版発行

 むかしむかし あるところに おじいさんと おばあさんと やまだくんが すんでいました。
 おじいさんは やまへ しばかりに おばあさんは かわへ せんたくに やまだくんは そらへ とびだちました。
 やまだくんは とくいの でんげきで とりを つぎつぎと うちおとしていきました。
 そう やまだくんは くるひのために くんれんを つんでいたのです。

「まだや まだたりんぞ」

 あるひ やまだくんが そらで もういを ふるっていると むこうから おおきな とりが どんぶらこ どんぶらこと とんできました。
 ぼろぼろの つばさに ひとのようなかお へびのようなからだをもつ おそろしいとりでした。
 おそろしいとりは やまだくんと めがあうと おぞましいこえで さけびました。

「いつまで いつまで」

 やまだくんは まけじと

「まだや まだたりんのや」

 と さけびかえしました。
 すると おそろしいとりは ふかい ためいきを つきました。

「おまえは そうなのかもしれない。しかし もう じかんがないのだ」
「ま まさか!」

 やまだくんは いそいで うみのほうへ とんでいきました。
 とちゅうで すれちがった はやぶさが めをまるくしています。
 やまだくんが むかったさきは おにのすんでいるしま 「おにがしま」でした。

 むかし おじいさんと おばあさんには かわいいむすめが いました。
 そのむすめは おにに さらわれてしまったのです。

「このむすめが おとなになるとき おれさまのよめに してやるぞ」

 たちむかったやまだくんは まだこどもでしたから なすすべもなく やられてしまいました。

「じぶんに もっと ちからがあれば……!」

 やまだくんは はやぶさよりも ずっとはやいですから おにがしまに たどりつくのに 15びょうと かかりませんでした。
 しまに おりたった やまだくんは おにを にらみつけます。

「あのこをかえせ! このあほんだら!」

 しかし おには いつになく しんけんなひょうじょうで かえしました。

「ふん きさまは きづいていないようだな。あのろうふうふが あのむすめにたいして おこなった しうちを!」
「な なんやて?!」
「あのむすめは おまえとどうよう すてられていたところを あの ろうふうふに ひろわれた。おなじ ひとのこが ひとりでしんでいくのが たえられなかったのだろう。
 しかし あるひ むすめに ゆきおんなの ちがながれていると しったときから ろうふうふは ひょうへんした! さいあいのむすめを おまえのみえないところで まいにち ぶつようになったのだ!」
「う うそや! そんなこと!」
「おまえがしんじようが しんじまいが おれさまには かんけいない。とにかく おれさまは あのむすめ…… いや はなこと けっこんする! はなこも それで なっとくしている! ぎしきは あすだ!」
「は はなこ! はなこーっ!」

 やまだくんが ひっしで はなこをよぶと おくのはしらの かげから はなこが こそりと かおをみせました。

「うそやろ? おにの いっとることは うそやろ?」

 はなこは くびを よこにふります。

「そうい ありません」
「そ…… そんな!」

 やまだくんは ついに ふらふらになりました。

「おじいさん…… おばあさん…… はなこ…… おに…… おれは…… おれは…… なにをしんじればええんやぁぁぁ!!」

 そのとき ぜっきょうとともに やまだくんの せなかから くろいつばさが ひろがりました。
 やまだくんは びっくりしました。
 おには あきれて いいました。

「おまえは ほんとうに なにもしらないようだ。しかし これは あのろうふうふも きづかなかったじじつ! おまえには からすてんぐの ちがながれておるのだ!」
「ほんまかいな?!」
「いかずちをはなったり こうそくで そらをとんだり おまえのような にんげんがいるか!」

 やまだくんは これまで にんげんとして せいかつしてきました。
 ちょうじんてきな のうりょくは しゅぎょうのせいかだと おもっていたのです。
 しかし いま はげしいいかりと こんらんにより やまだくんは ついに からすてんぐの せんしとして めざめたのです。

「う うおおぉぉぉぉー!!」

 やまだくんが さけぶと あたりいちめんに いかずちが ほとばしり はしらやゆかを ずたずたに ひきさきました。

「おお このちから! もはや おまえは やまだくんではない! やまだたろうだ!」
「いつまで いつまで…… ああ! ついに!」

 しまの じょうくうで ひそかに はなしをきいていた おそろしいとりも かんきのこえを あげます。

「やまだくん いえ やまだたろう……」

 はなこは やまだたろうに かけよります。
 しかし やまだたろうは ふりきりました。

「おれはもう おじいさんと おばあさんのもとへは もどれない」
「ここには きんぎんざいほうが やまのようにある! はなこと おまえを やしなうことくらい わけないぞ!」

 おにのことばを よそに やまだたろうは うみを みつめます。

「いいや おれは たびにでる」
「そんな! やまだたろう!」
「おにと たっしゃでな! はなこ!」

 そう いいのこすと やまだたろうは あっというまに すがたを けしてしまいました。

 そして 250ねんご。
 とおいとおい やまのおく……

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