※R-18っぽい
要素:エロ BL 触手 ギャグ ホラー スプラッター ……って何これ?
月の光が差す病室。一つ置かれたベッドの上で、二人の男がもぞもぞと蠢いている。
押し付けられている片方は、赤くさらさらとした長髪に、前髪で右目を隠した、端正な顔立ちの男。年齢は二十代ほどに見える。
もう片方は、やや目が隠れる程度の灰色の短髪で、痩身の男。しかし、纏う白衣は髪と同じ灰色で、肌は今宵の月のように白く、その手首からは銀色の触手が伸びていた。顔つきは若いが、その身なりからか何か異様なものを感じさせる。
触手は両手に五本ずつあり、大きさにはややバラつきがあるものの、密集した生え際から手首ほどの太さになり、先端に向かうほど細くなっている。ツルツルとしたシンプルな触手ではあるが、粘液は滴りそうなほどに分泌していた。
ぬらぬらと光るその触手を、赤い髪の男の体にねっとりと絡み付ける。
「……あっ」
彼が唯一身につけているワイシャツの中を、触手達がくちゃくちゃと音を立てながらまさぐる。
彼はスマートではあるが、筋肉をつけたしっかりとした身体であることを、太い脚やはだけた胸元から見て取れた。
この病室の患者は、灰色の男の方だ。
人気の少ないこの病院にやって来た新たな人間は、それだけで男にとって好奇心の対象であった。
灰色の男は昔から、自身の好奇心一つで行動してきた。その標的が今回、この赤い髪の男だったのだ。
赤い髪の男はお人好しなやつだった。患者服ではなく灰色の白衣を身につけ、蛍光色の液体が入った点滴台を連れるこの妙な男に対しては、もっと警戒をするべきであった。
しかし彼は自分の礼儀を通し、名乗った後はいつも他人に挨拶をするように、付かず離れず和やかに接した。
それがいつの日か。通院を続ける中、灰色の男の病室に寄った際に、彼は強引にベッドに押し付けられた。「運動に付き合え」とのことだった。
初めは抵抗したものだが、突き飛ばすことはせず、しばらくすると諦め、甘受した。
男の白い手が触手に変形した時は面食らったが、はっきり言うと、触られるだけだった。男はやはり、入院患者らしく、体力がないのだ。
いつしかそれは、関係として続いていった。
灰色の男は触手を動かし続けながら、赤い髪の男の首元に口付けた。
触れるとともに、彼の身体がぴくりとわずかに反応する。
「んっ」
灰色の男は離れず、そのまま彼の首元を舐め回した。
「あ……ぅ……」
感触に応える彼のゾクゾクとした震えを、灰色の男は感じたのだろうか。
ワイシャツの中で、彼の胸の先を、触手がきゅうっと締め付ける。
彼は堪らず男の腕を掴み、白衣を握り締めたが、男は構わず行為を続ける。
ふう、ふう、と息をする彼の太ももを、ゆっくりと撫で上げる。見れば、彼のモノも、ゆっくりと硬直し始めていた。
見つめる男の目は、灰色の髪の奥でギラギラと黄緑色に光っていた。
「かわいいやつめ」
今度は彼の唇に口付ける。つん、とだけ触れて、後は彼の唇を舐め回し続けた。
「んん……」
これはやや焦れったそうだったが、灰色の男はやはりマイペースだ。
口付けの仕方は変えずに、彼の胸の両方の先端を、触手の先でくりくりといじってやる。何かが彼の胸から足先まで伝わったようだが、間もなく、彼の下から後ろへ触手の一本を這わせ、入り口にあてがった。
「ひゃうっ」
彼は一瞬、白衣を握る力をぎゅっと強くした。
彼は未だにこの感触に慣れないようで、その度に裏返った声を上げるのだ。
「かわいいやつめ……」
男はどこか満足気な表情で、そのまま入り口を撫で回す。
それは妙に優しい手つきで、胸や脚の刺激もあるためか、彼の体はぴりぴりと反応した。
「あ……んっ……ちょっ」
触手は入り口をしばらくいたぶった後、中に侵入を始めた。
「ま、待って!」
「待たん」
「だ、だめっ……、や、だ……ぁ……んんっ……」
彼はまぶたを閉じ、荒く息をしながら、男の白衣を握り締める。
柔らかく粘液にまみれたそいつは、ゆっくりゆっくり、自分の身体の奥の方まで、ぬるりぬるりと、確実に進んでくる。
息と共に絞り出される彼の声は、とても小さく、甲高い。
「いや……随分と良さそうだ」
彼の身体の反応を確かめ、男はそうつぶやく。
言う間にも、身体中を這う触手達は遠慮なしに動く。ほんのりと赤かった彼の頬も、次第に紅色を濃くしていった。
「う……うぅ……っ」
挿入された触手は、奥の方まで行くと止まった。
と、思いきや、今度は来た道をズルズルと戻っていく。
「うぐっ!」
彼の身体が跳ねた。
抜けるかと思ったところで、今度は奥まで素早くズブリと突き込まれたのだ。
そして、先程の地点に到達したら、また抜けるギリギリのところまでズルッと引き抜かれる。
そこでまた、一気に強く突き上げられ。
グチュグチュと音を立てながら、中の肉壁は何度も擦られた。
その度に、彼の身体は敏感に反応しながらも、触手の動きを素直に受け入れていた。
他の触手は、相変わらず彼の身体中をくちゃくちゃともてあそんでいる。
「はあっ、あっ、ぃ、や、あぁっ……」
動きに合わせて、彼の口から熱い息と声が漏れる。
気付けば、そそり立つ彼の前からも、とろりと温かい液体が溢れ始めていた。
「おっと」
男は一旦、手を止めた。後ろの触手も、そっと外まで引き抜いた。
「はあ、はあ……くっ……」
いつもと違う行動だった。
彼は荒く息をしながら、不思議そうに男の方を見つめる。
それは、互いに一息つける瞬間だった。
「今日はお前にプレゼントがあってな」
そう言うと男は、白衣はそのままに、下だけ脱いでみせた。
露になった男のそれは、立ち上がっているようだった。
「えっ……あの……もしかして」
「そうだ。お前のおかげで、私の体力も順調に回復していてな。しかし果たして、使い物になるかどうか……ここは一つ、試してみようではないか」
男は愛おしそうに、触手の一本でそれをそっと撫でる。
先程までの行為で赤くなっていた彼の顔が白くなった。
「すみません! 僕、手でするのも、飲み込むのでも、何でもやりますから! それを……その……」
「それを?」
「お、お尻に突っ込むのだけは勘弁して下さい!」
「今更何を言うのだ。私はやめんぞ。あれだけ触手を受け入れていたお前だ。余裕でいけるだろう」
「いけるとかいけないとかの問題じゃありませんっ!!」
「馬鹿、声がでかい」
「むぐっ」
口に触手を突っ込まれた。
今まで散々後ろをやられていたとはいえ、触手はあくまでも「手」である。
そこに男のモノを突っ込まれることは、彼的にはいよいよアウトなのかもしれない。
「アカツカ……諦めろ」
「む……うぅ……」
「ほーれ、向こうを向けっ」
男は、泣きそうになっている彼の口から触手を引っ込め、互いの体勢を変えた。
彼は四つん這いになり、男の方へ尻を突き出す形にされる。
次に男は、自分の触手を元の人の手に戻し、彼の尻を掴み広げる。そこで粘液を垂れ流す穴を観察すると、しずしずと自分のモノを彼の後ろにあてがった。
「いくぞ」
「……はい」
宣言をしてくれるだけ、男は優しかったのかもしれない。
男はそのままグンと突き挿れた。
「うああぁあぁっ」
肉体的なものか、または精神的なものか、彼は涙目だった。
いつも触手を突っ込まれるのとはまた違った感触が、彼の中に滑り込んでくる。
「か、かたい……」
「……それは良かった」
男はもう一押し。
彼はシーツを握り締めながら、必死に受け入れている。
「うむ。うまいこと収まったな。良かった良かった」
「うぅっ……」
泣き顔の彼をよそに、挿入を綺麗に成功させた男は機嫌が良さそうだった。
しかし、動こうとした男は、わずかに顔をしかめる。
「少しきついぞ。力を抜け」
彼は一呼吸おいて、反論した。
「そんなこと言ったって……そっちこそ、ちょっと引いて下さいよ。正直ちょっと痛いです」
男は眉間にしわを寄せる。
「いや、こっちは物理的に動けんのだ。お前が先に力を抜け」
「……これが限界ですよ」
彼がため息をついた。
「あ、あのなぁ……」
「…………」
静寂。
「……こ、これはっ……!」
これはどうした拍子か。
抜けない! 男達に動揺が走った!
「うおおお! なっ! 何故だぁ!!」
「声大きいですっ」
その突然のトラブルは、男がようやく表情を崩した瞬間だった。
しかし、すぐに持ち直す。
「仕方がない……このまま何とかして射精する。萎えれば何とかなるだろう」
「ええー……」
「大丈夫だ。お前は"残機制"だ。いざとなったらお前があの鋸殺人鬼にバラバラにして貰えばいい」
「いやいやいや! 嫌ですよ僕、そんな痛いの!」
「俺をいいように使うなぁっ!」
突然、噂の鋸殺人鬼が現れた!
正確に言うと、彼の右手に握られているものはチェーンソーである。
外見的な特徴は、中折れ帽子に一つ縛りの白髪、隻眼と筋肉質な身体で、チェーンソー以外はだいぶ一般的な若い人間の男であるが、赤い彼はこっそり悲鳴を上げていた。
「なんだ、いたのか」
「なんか取り込み中だったから終わるまで待ってたんだよ」
「お待たせしてすみません……」
不穏な空気だった。
男同士で繋がったまま外れないところに、チェーンソーを持った殺人鬼の乱入。ホラー映画などでは、カップルが殺人鬼に襲われるシーンはよくあるものだが、今回はどことなく異様な光景であった。
「男同士で何やってんだかなー」
「ホントすみません……」
赤い彼は反射的に謝罪を重ねた。体勢的に「お辞儀」が出来ないためか、そのまま下を向いて顔全体をベッドにうずめた。ささやかな土下座スタイルである。
「いや、つい出ちゃったけどさ……邪魔するつもりはなかったんだぜ、一応」
「フォローになっとらん」
「まあ、とりあえず何とかしてくれや」
鋸男はそう言うとベッドから背を向けて、腰のシザーケースから菓子を取り出し食べ始めた。小さいボール状のチョコレートが携帯サイズの紙箱に詰めてあるもので、チョコレートのころころ転がる音がよく聞こえる。
「……続きをするか」
「というか、抜けるようにして下さい……僕もう、恥ずかしいです……」
ベッドに顔をうずめたまま言うせいで、彼の言葉は小さく聞こえた。
「うむ……自分で始末してみるか」
灰色の男は右手を再び触手に変えると、どことなく複雑な表情で、自分の触手が届く根元や袋をいじりだした。若干、彼の尻にも当たってくすぐる。
「……う、うーむ……ちくしょう……」
「なんだか、極めてマニアックなプレイのような気がしますね」
どうでもよかった。
――その時、鋸男に電撃が走る――!
「いいこと思いついた。俺がテメーのイチモツをぶった切ればいいんだ。赤塚君は緊急手術で摘出なっ」
二人は表情を凍りつかせ、声の主の方を見た。
視線の先にあったのは、子供のような無邪気な笑顔を見せる鋸男であった。
「あのお医者さんのことだぜ。夜中でも喜んで動いてくれるだろ」
言いながら男は、紙箱をシザーケースに収め、チェーンソーのスターターを引いた。バイクのエンジンのような小気味いい起動音が部屋に響く。
「それって僕、すっごく恥ずかしいんですけどっ」
それだけの問題か。
「いーからいーから。さあいくぜっ!」
「よくねぇー!!」
灰色の男は叫んだ。
と、同時に、男の顔をチェーンソーが突き抜けた。
「けひゃっ」
月の光に照らされた鋸男の笑顔は、先程までの子供のようなものではなく、殺人の快楽に喜ぶ悪魔の表情だった。
チェーンソーが唸り声を上げる。前から男の右目に突っ込んだ刃は黒い血を散らしながら斜め下を切り進み、男の右腕を切り落とした。
「ひっ」
男は叫ぼうとしたが、横薙ぎの唸りが男の声と首を切断した。男の首はゴトリと音を立てて床に転がり、床に血溜まりを広げた。
鋸男は黒い血飛沫を浴びながら解体を続ける。でたらめに振られたチェーンソーはオイルと血と肉片を吐き出しながら男の身体を上からぶつ切りにしていき、最後に男の性器を根元から縦切りにした。
男の身体は腰から下だけを残し、残りはバラバラになって床に撒き散らされた。
この鋸男、最後の仕上げの際は自分で言っておいて少々微妙な表情だった。
「んん〜。俺ってばテクニシャン」
鋸男はチェーンオイルと男の返り血をたっぷり浴びてびちゃびちゃだった。
事を終えた鋸男は、残った男の下半身をどうでもよさそうにその辺に投げ捨てて、赤い彼の尻を撫でる。
赤い彼と言っても、男の至近距離にいたせいで血飛沫を浴びてしまい、その髪はワイシャツと共に黒く染まっているわけだが、黒い血をぬぐった下の肌には傷一つついていない。
「だいじょーぶ? 切った衝撃でなんか出ちゃったかなー?」
殺人鬼は気さくな調子で彼に話しかける。チェーンソーのエンジンは相変わらず唸っている。
彼はというと、自分の頭を両手で庇って固まっていた。
「……お前も切ってやろうか?」
低い声調だった。
鋸男はシザーケースからハサミを取り出す。
それはとても美しい銀色のハサミで、部屋に差すわずかな月の光を反射して、ギラギラと怪しい輝きを放っていた。
鋸男がハサミをぺろぺろと舐め回す。ハサミから唾液が滴り落ちる。
それをちらりと見た赤い彼は、必死に首を振りながら声を出す。
「いっ……いやいやいや」
「そうだな」
鋸男はチェーンソーのエンジンを止め、ハサミをシザーケースにしまった。
「俺も今日は赤塚君って気分じゃないや」
鋸男はけらけら笑いながら、壁のボタンを押す。とても無邪気な笑顔だった。
「ナースコールは押しといたからな。じゃあね。おやすみ〜」
「えっ」
鋸男はにっこり笑って手を振ると、さっさと窓から出て行った。
部屋には、黒く染まった赤い彼と、男のバラバラ死体が残された。